下顎位(かがくい)を探しながら行う噛み合わせ治療は、非常に繊細で重要なプロセスです。噛み合わせのバランスをとるには、「どの位置で上下の歯が正しく接触すべきか」を見極めることが大前提です。この“正しい下顎位”を見つけることが、治療の精度と予後の安定性を左右します。
【1】下顎位とは?
下顎位とは、「下顎の基準となる位置」のことを指します。
大きく分けて以下のような種類があります:
- 習慣性咬合位(CO):患者さんが普段無意識に噛んでいる位置。
- 中心位(CR):顎関節にとって最も安定した、筋肉の緊張が少ない生理的な位置。
- 咬頭嵌合位(ICP):上下の歯が最も多く接触する位置。
- 筋肉バランスに基づく下顎位:筋肉のバランスや関節の運動に調和した機能的な位置。
【2】なぜ下顎位を探す必要があるのか?
- 顎関節症の予防・改善
誤った噛み合わせは、顎関節に無理な力をかけ、痛みや開口障害の原因になります。 - 正確な補綴治療のため
ブリッジ・義歯・インプラントなどの治療において、誤った下顎位で作製すると、不快感や再治療の原因になります。 - 矯正治療の安定化
歯列を動かすだけでなく、咬合の安定にもつながるポジションを見つける必要があります。
【3】下顎位を探る手法
1. 顎関節と筋肉の診査
- 顎関節の雑音(クリック、クレピタス)、偏位、開口量などをチェック。
- 咬筋、側頭筋、内側翼突筋の圧痛なども評価。
2. バイトプレート(スプリント)療法
- 一時的に咬合を解除し、筋肉や関節の緊張を解く。
- 筋肉が自然に導く下顎位を見極める目的。
3. フェイスボウと咬合器を用いた模型診査
- 歯列模型を咬合器にマウントして、CRでの再現性を確保し、咬合干渉を分析。
4. パントモ・CT・顎機能検査(CADIAXなど)
- 顎関節の位置や運動軌跡を可視化し、科学的根拠に基づいた咬合再構成が可能。
【4】下顎位を導いた後の治療戦略
- 咬合調整:干渉部を最小限に整え、理想的な噛み合わせを導く。
- 補綴・修復:CRまたは機能的下顎位に基づいて設計された補綴物を装着。
- 矯正治療:理想の咬合関係に向けて、歯の移動計画を立てる。
- 長期観察:定期的なフォローで、筋肉の変化や症状の再発を防止。
【5】まとめ:下顎位を「探しながら」治療する意味
下顎位の決定は、見た目の噛み合わせ以上に、“顎の機能の安定”や“全身の健康”に深く関係します。
噛み合わせの治療においては、最初から正しい下顎位を決めつけるのではなく、**診査・観察・調整を繰り返しながら、患者さんの自然な下顎位を“探し出す”**ことが何よりも重要です。