**歯の保存とインプラントの共存
—— 長期予後から逆算する“正しい選択”とは**
「できるだけ自分の歯を残したい」
「でも、インプラントの方が長持ちすると聞く」
患者さんの多くが、この二つの間で迷います。
しかし実際の臨床では、この二つは対立する選択ではありません。
本当に重要なのは、“保存とインプラントをどう組み合わせるか”という設計そのものです。
私は日々、包括的な治療を行う中で、
「無理に残した歯が全体の予後を悪くする」
「早めに抜いたことで他の歯が守られた」
そんな症例を何度も経験してきました。
結論を先に言えば、
保存かインプラントかの二択思考では、長期的にはかえって歯を失いやすくなります。
最も大事なのは、口全体の力学バランスを整えること。
そのために、保存とインプラントは“共存”させるべきです。
■ なぜ「保存 vs インプラント」ではなく「保存 × インプラント」なのか
● 歯の寿命には大きな個体差がある
同じ患者さんの口の中でも、歯ごとに寿命は異なります。
- 歯周病で支持骨が減っている歯
- むし歯治療を何度も繰り返し、残存歯質が薄い歯
- かぶせ物が大きく、クラウン–ルート比が悪い歯
- 無自覚に強い力がかかっている歯(咬合性外傷)
こうした「弱い歯」を無理に延命すると、
周囲の歯や補綴物に負荷が移り、連鎖的にダメージが進みます。
延命のための延命は、全体最適を損なう。
これは包括歯科臨床の基本原則です。
● インプラントは強いが“万能ではない”
インプラントは有効な治療手段ですが、リスクもあります。
- 咬合負荷に弱い設計では破折やスクリュー緩みが起きる
- 清掃が不十分だとインプラント周囲炎になりやすい
- 本数が増えるほど全体の調和を取るのが難しくなる
- 誤った位置に入れると、その後の補綴自由度が極端に下がる
つまり、必要な本数・必要な場所・正しい設計がそろわない限り、
インプラント単独では長期予後は保証されません。
■ “共存”とは、各歯に正しい役割を与えるということ
保存とインプラントの共存とは、
単に「残せる歯は残して、足りない所にインプラント」という話ではありません。
本質は、
「どの歯にどんな役割を与えるのが、全体として最も壊れにくいか」
を設計することです。
- 前歯はガイド(誘導)
- 奥歯は荷重の支柱
- インプラントは欠損部の補強点
- 天然歯は噛み合わせのクッション
つまり、各歯に“担当”がある。
どれか1つが過剰に働くと、負担が偏り破綻します。
包括治療のゴールは、歯1本の延命ではなく、歯列全体が長く安定する状態にすることです。
■ 残す価値のある歯と、残さない方がいい歯
治療方針を決めるうえでもっとも重要なのは、
その歯に「残す価値」があるかどうかです。
▼ 残す価値がある歯
- 歯周病がコントロールできている
- 根の治療が適切に行われている
- 補綴再設計でクラウン–ルート比が改善可能
- 咬合負荷を適正化しやすい
- 再治療を減らせる見込みがある
こうした歯は、保存することで全体の安定に貢献します。
▼ 残す価値が低い歯
- 深い縁下カリエスで、何度も再治療を繰り返している
- 破折リスクが高く、咬合力に耐えられない
- 病的動揺が強く、骨支持がほとんどない
- 保存すると周囲歯の負担が増える
このような歯は、延命より戦略的抜歯が合理的です。
抜歯は“敗北”ではなく、未来のための選択です。
■ ソアビル歯科が大切にしている治療哲学
当院の理念である
「誠実さと思いやりをもち、上質な歯科医療を提供します」
は、保存とインプラントの判断にも反映されています。
- 無理な延命はしない
- しかし、抜かなくて良い歯は徹底して守る
- インプラントは必要最小限に
- 噛み合わせ・咬合力・清掃性まで含めた全体設計を行う
- 10年、20年後の歯列の安定を最優先する
つまり当院では、
目先の処置より、長期的な口腔の健康価値を最優先します。
■ 結論:迷うのは当然。だからこそ、精密な診断が必要
歯を残すか、抜いてインプラントにするか。
これは、歯1本だけの問題ではありません。
口全体のバランス、清掃性、咬合力、骨量、患者さんの価値観まで含めて判断すべき問題です。
情報が多く、選択肢も多い時代です。
迷うのは自然なことです。
もし悩まれているなら、検査だけでも構いません。
今の状態と、将来起こり得る “未来予測” を分かりやすく説明いたします。
歯を守りながら、必要な治療は確実に行う。
保存とインプラントの共存は、
その二つをバランス良く達成するための最善の方法です。
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