2026.2/7

【第6回】「医学的に正しい」が「あなたにとって正解」とは限らない?後悔しない治療選びの秘訣

【第6回】「医学的な正解」が「あなたにとっての正解」とは限らない?後悔しない治療選びの秘訣

【本連載にあたって:科学的根拠に基づく診療】 本連載は、歯科医療の専門論文(※)に基づき、当院の診療方針を体系的に解説する全10回の特別企画です。今回は、治療方針を決定する際に最も重要な「個人の価値観」と「医学的な根拠」をどのように調和させるべきか、その本質についてお話しします。▶ 連載インデックス(目次)に戻る


1. 歯科医療における「最善」の定義とは

歯科医院を受診した際、「一番良い治療法を教えてください」と尋ねたことはありませんか? 実は、歯科医師にとってこの問いに答えるのは、非常に難しい課題です。なぜなら、お口の状態という「生物学的な事実」に対して、その方がどのような生活を送り、何を大切にしているかという「人生の背景」によって、最善の答えは180度変わるからです。

ソアビル歯科医院では、医師が一方的に治療法を決定し、押し付けることはありません。専門論文においても、現代の歯科医療には**「EBM(根拠に基づく医療)」「VBP(価値観に基づく診療)」**の双方が不可欠であり、これらは車の両輪のような関係であると説かれています。

今回は、一人の患者として「この治療を選んで本当に良かった」と心から納得するために知っておきたい、治療選びのメカニズムをご紹介します。

2. EBM:世界中の知見が示す「科学的根拠」

医療の土台となるのは、間違いなく**『EBM(Evidence-Based Medicine:根拠に基づく医療)』**です。これは、過去の膨大な臨床データや研究結果から、「どの治療が最も再発しにくいか」「どの材料が体に優しいか」を科学的に判断するものです。

私たちはプロフェッショナルとして、常に最新の論文や学術情報をアップデートし、科学的根拠(エビデンス)を提示する責務があります。 「統計的には、こちらの治療法の方が10年後の残存率が高いです」 「この処置には、このような合併症のリスクが数パーセント存在します」

こうした客観的な事実を正しく知ることは、治療選びの第一歩です。しかし、データはあくまで「平均値」であり、目の前にいる「あなた」という個人にそのまま当てはまるとは限りません。

3. VBP:あなたの「人生の優先順位」を主役にする

そこで重要になるのが、論文でも強調されている**『VBP(Values-Based Practice:価値観に基づく診療)』**です。これは、患者さまお一人おひとりが持つ独自の「価値観(バリュー)」を、治療の最終決定軸に据える考え方です。

価値観は、人によって、あるいは人生のステージによって千差万別です。

  • ある方は: 「費用や時間がかかっても、天然の歯と遜色ない機能を追求したい」
  • ある方は: 「仕事や介護で忙しいため、まずは最小限の回数で痛みを取り、安定させたい」
  • ある方は: 「機能も大切だが、何より自然な見た目を維持して自信を持ちたい」

もし、短期決戦を望む方に、医学的に最高峰だからといって数ヶ月を要する緻密な自由診療を強く勧めたらどうなるでしょうか。それは、医学的には「正論」であっても、その方の現在の人生にとっては「正解」ではありません。

当院では、あなたの「こうありたい」という願いを、医学的な正解と同じくらい大切に扱います。

4. 納得感を生む「協働的意思決定(SDM)」

「医学的な根拠(EBM)」と「個人の価値観(VBP)」という、一見異なる二つの視点を融合させるためには、深い対話が欠かせません。論文では、これを**『協働的意思決定(SDM)』**と呼び、医師と患者さまが対等なパートナーとして手を取り合って進むべきプロセスだと定義しています。

私たちは、専門家として「複数の選択肢」を、それぞれのメリット・デメリットを添えて提示します。それらの情報を聞いた上で、ぜひご自身の生活や将来に照らし合わせてみてください。

「今の私には、この選択が一番しっくりくる」 そうやってご自身で納得して選んだ道は、その後のセルフケアや定期検診へのモチベーション(アドヒアランス)を飛躍的に高めます。結果として、選んだ治療が長持ちし、本当の意味での「成功」へと繋がっていくのです。

5. すべては「幸せな人生」のために

「先生に任せきりにするのが一番楽だ」と思われるかもしれません。しかし、自分の体に関わる重大な決定に自ら参加することは、治療後の満足度を大きく左右します。

専門論文が説く「共感的・全人的医療」の本質とは、患者さまを「症例」として診るのではなく、意思を持った「人間」として尊重することにあります。医学的なデータという「地図」を確認しながら、あなたの価値観という「目的地」に向かって、共に歩んでいくこと。それがソアビル歯科医院のスタイルです。

どんなに小さな不安や、個人的なこだわりでも構いません。あなたの「大切にしたいこと」を、ぜひ私たちに教えてください。それが、あなただけの「正解」を導き出す唯一の鍵となります。


納得して治療法を選びたいすべての方へ

ソアビル歯科医院では、科学的根拠(EBM)に基づいた選択肢を明示しつつ、患者さまの価値観(VBP)を尊重したカウンセリングを行っています。自分に合った治療がわからない、迷っているという方も、安心してお気軽にご相談ください。


次回予告:健康を維持する「やる気」の引き出し方

次回は、治療後に健康な状態を維持するための心理学。患者さまの**「行動変容(モチベーション)」**を支え、自らお口を守りたくなるようなコミュニケーションの工夫についてお話しします。▶ 連載インデックス(目次)に戻る

(※)参考文献:日本総合歯科学会雑誌 第10巻 第1号(2018) 「総合歯科医の具有すべきコンピテンシー―これからの歯科医療に求められる共感的・全人的医療の実践―」