2026.2/25

プラークコントロールを、もう一度まじめに考えてみる

プラークコントロールを、もう一度まじめに考えてみる

— Löe(1965)/Lang(1973)/Van der Weijden(2005)を読み直して —

歯周治療において「プラークコントロール」はあまりにも当たり前の言葉です。
しかし、その科学的背景を丁寧に説明できるかと問われると、案外あいまいかもしれません。

今回は、歯周治療の原点ともいえる三つの研究を、あらためて振り返ってみたいと思います。


1.すべてはここから始まった — Löe 1965

Harald Löe らによる1965年の「Experimental Gingivitis in Man」は、非常にシンプルな研究でした。

健康な被験者にブラッシングをやめてもらう。
その結果、約10日ほどで歯肉に炎症が出現し、21日で明らかな歯肉炎になる。
再び清掃を再開すると、炎症は消えていく。

この研究が示したのは、
プラークが歯肉炎を引き起こすという明確な因果関係です。

けれども同時に、炎症の強さや進み方には個人差がありました。
同じだけプラークがあっても、反応は同じではない。

この事実は、「原因は単純でも、臨床は単純ではない」ことを教えてくれます。


https://www.researchgate.net/publication/24418179/figure/fig4/AS%3A279146539307024%401443565129845/Experimental-gingivitis-in-humans-Loee-et-al-1965-Graphs-demonstrating-the.png
https://www.researchgate.net/publication/280584133/figure/fig2/AS%3A341890223362064%401458524390017/Images-of-patients-demonstrating-the-clinical-progression-of-periodontal-disease-from.png

2.どのくらい磨けばいいのか — Lang 1973

Niklaus P. Lang らは、ブラッシングの間隔を変えることで歯肉炎の発症を観察しました。

その結果、
48時間以内に確実なプラーク除去が行われれば歯肉炎は抑制できる
と報告されました。

理論上、1日1回しっかり除去できれば十分ということになります。

ただし、ここで重要なのは“しっかり”という部分です。
研究条件下では可能でも、日常生活の中で同じ精度を維持できるかどうかは別の問題です。


3.現実はどうか — Van der Weijden 2005

https://i1.rgstatic.net/publication/232232169_The_effectiveness_of_manual_versus_powered_toothbrushes_for_plaque_removal_and_gingival_health_A_meta-analysis/links/60c82bc092851c8e6395db10/largepreview.png
https://www.mdpi.com/ijerph/ijerph-18-13123/article_deploy/html/images/ijerph-18-13123-g007.png
https://www.mdpi.com/children/children-11-01498/article_deploy/html/images/children-11-01498-g005.png

G.A. Van der Weijden らの2005年のシステマティックレビューでは、手用・電動歯ブラシによる単回ブラッシング後のプラーク除去率が検討されました。

平均除去率はおよそ40〜60%。

つまり、私たちが思っているほど完全には取れていない、というのが現実です。

理論上は予防可能。
しかし実際には、慢性的に炎症が残りやすい。

この“理論と現実のギャップ”が、歯周治療の難しさでもあります。


三つの研究から見えてくること

三つの研究を並べてみると、流れはとても明快です。

  • プラークは炎症を起こす(Löe)
  • 一定の頻度で除去すれば予防できる(Lang)
  • しかし実際の除去率には限界がある(Van der Weijden)

ここから言えるのは、
セルフケアだけに期待する設計では、安定は保証できないということです。

だからこそ、

  • プロフェッショナルケアの介入
  • 客観的な数値評価(PCRなど)
  • 再評価を前提とした治療設計

が必要になります。


私たちが大切にしたいこと

プラークコントロールは、単なる「歯磨き指導」ではありません。
それは歯周治療の出発点であり、長期安定の土台です。

古典的な研究を読み返すと、
派手なテクニックよりも、基本の積み重ねの大切さに気づかされます。

原因を見失わないこと。
理論だけでなく現実を見ること。
患者さんの生活の中で成立する設計を考えること。

歯周治療は、細菌との戦いというより、
“設計の精度”との向き合いなのかもしれません。


おわりに

Löe(1965)、Lang(1973)、Van der Weijden(2005)。
いずれも決して新しい研究ではありません。

しかし、その本質は今も変わっていません。

プラークコントロールは地味です。
けれども、その地味な部分を丁寧に扱えるかどうかが、
長期予後を左右します。

基本を軽くしないこと。
それが、上質な歯科医療の第一歩なのだと思います。