プラークコントロールを、もう一度まじめに考えてみる
— Löe(1965)/Lang(1973)/Van der Weijden(2005)を読み直して —
歯周治療において「プラークコントロール」はあまりにも当たり前の言葉です。
しかし、その科学的背景を丁寧に説明できるかと問われると、案外あいまいかもしれません。
今回は、歯周治療の原点ともいえる三つの研究を、あらためて振り返ってみたいと思います。
1.すべてはここから始まった — Löe 1965
Harald Löe らによる1965年の「Experimental Gingivitis in Man」は、非常にシンプルな研究でした。
健康な被験者にブラッシングをやめてもらう。
その結果、約10日ほどで歯肉に炎症が出現し、21日で明らかな歯肉炎になる。
再び清掃を再開すると、炎症は消えていく。
この研究が示したのは、
プラークが歯肉炎を引き起こすという明確な因果関係です。
けれども同時に、炎症の強さや進み方には個人差がありました。
同じだけプラークがあっても、反応は同じではない。
この事実は、「原因は単純でも、臨床は単純ではない」ことを教えてくれます。


2.どのくらい磨けばいいのか — Lang 1973

Niklaus P. Lang らは、ブラッシングの間隔を変えることで歯肉炎の発症を観察しました。
その結果、
48時間以内に確実なプラーク除去が行われれば歯肉炎は抑制できる
と報告されました。
理論上、1日1回しっかり除去できれば十分ということになります。
ただし、ここで重要なのは“しっかり”という部分です。
研究条件下では可能でも、日常生活の中で同じ精度を維持できるかどうかは別の問題です。
3.現実はどうか — Van der Weijden 2005



G.A. Van der Weijden らの2005年のシステマティックレビューでは、手用・電動歯ブラシによる単回ブラッシング後のプラーク除去率が検討されました。
平均除去率はおよそ40〜60%。
つまり、私たちが思っているほど完全には取れていない、というのが現実です。
理論上は予防可能。
しかし実際には、慢性的に炎症が残りやすい。
この“理論と現実のギャップ”が、歯周治療の難しさでもあります。
三つの研究から見えてくること
三つの研究を並べてみると、流れはとても明快です。
- プラークは炎症を起こす(Löe)
- 一定の頻度で除去すれば予防できる(Lang)
- しかし実際の除去率には限界がある(Van der Weijden)
ここから言えるのは、
セルフケアだけに期待する設計では、安定は保証できないということです。
だからこそ、
- プロフェッショナルケアの介入
- 客観的な数値評価(PCRなど)
- 再評価を前提とした治療設計
が必要になります。
私たちが大切にしたいこと
プラークコントロールは、単なる「歯磨き指導」ではありません。
それは歯周治療の出発点であり、長期安定の土台です。
古典的な研究を読み返すと、
派手なテクニックよりも、基本の積み重ねの大切さに気づかされます。
原因を見失わないこと。
理論だけでなく現実を見ること。
患者さんの生活の中で成立する設計を考えること。
歯周治療は、細菌との戦いというより、
“設計の精度”との向き合いなのかもしれません。
おわりに
Löe(1965)、Lang(1973)、Van der Weijden(2005)。
いずれも決して新しい研究ではありません。
しかし、その本質は今も変わっていません。
プラークコントロールは地味です。
けれども、その地味な部分を丁寧に扱えるかどうかが、
長期予後を左右します。
基本を軽くしないこと。
それが、上質な歯科医療の第一歩なのだと思います。








